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心の専門家に聞く、
家庭での「子どもの勉強」への関わり方(後編)

特別インタビュー − 心理学から受験を考察する

スタディカルテLab

子どもがなかなか宿題をしない。このままで大学受験は大丈夫だろうか。心配になってあれこれ子どもに呼びかけてみても、なんだか嫌がられてしまってこれって逆効果?どうやって声をかけたらいいの? 子どもの勉強に対する親の関わり方について、「心の専門家」である臨床心理士の松尾さんにお話を伺いました。前編・後編の全2回でお届けします。

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スタディカルテLab 代表/樋口 雅範

樋口

臨床心理士・公認心理師/松尾 華香

松尾

樋口

引き続いて後半では、保護者の方からの具体的なご相談内容をもとに、心理学の面からアドバイスをいただけたらと思っています。

松尾

はい!よろしくお願いします。

Case.1 勉強がうまくいかず、投げやりに…

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子どもは進学校に通う中学3年生なのですが、勉強面でずっと周りから少し遅れをとっていました。中3になって今更ながら頑張ろうと思ったものの、うまくいかず「もういいや」と投げやりになってしまいました。このような場合どう関わってあげたらいいのでしょうか?

樋口

これは、中高一貫校に通っている子とか、高校受験で燃え尽きてしまった子とかにも、たまにいるパターンですね…。

松尾

本人としては、これまでやってもやってもだめで、何をやっても無駄なように感じる、学習性無力感があるのかもしれませんね。
どれくらいの深刻さかにもよりますが、少しでも挑戦してみようという思いが持てるようであれば、まずは関心のある教科や単元に一点集中して、成功体験をつくることから始めてみるといいかもしれません。

樋口

なるほど。私も、苦手意識のある生徒と一緒に目標を設定する時は、周りと比べるのではなく、自分自身と比べることを意識してもらうようにしています。

例えば、数学に一点集中するときには、現状のレベルを一緒に確認し、頑張って到達できるレベルを一緒に決め、必要な小さなステップの積み重ねをつくっていき、達成できた事を一緒に喜ぶ。そんな感じでしょうか。

松尾

そうですね。そのような積み上げ式が合っているか、長期目標からトップダウンで考える方が合っているかは個人にもよりますが、現実的で無理なくできるというのが原則になると思います。今ひとまずやれるところを続ける。例えば、まずは目標○点、それがクリアできたら次は平均点を目指して、平均点が取れたら次は学年○位を目指すなどと、焦らず順番に。その目標で納得感があるかどうかも調整していけるとなおいいですね。

樋口

なるほど。トップダウンの考え方が合いそうな子にはどうしたらいいでしょうか?

松尾

心理学でシェイピングという方法があります。簡単に言うと、スモールステップで目標行動を分解していく方法です。療育の支援計画にも用いられていますが、私が運営しているオンラインメンタルスクールでは、そういった要素を入れつつ、本人と一緒にわくわくしながら作っていけるシートをつくり、活用しています。(下の図は受験生向けの仕様にしたものです。)一番上の欄には将来の夢や卒業時の状態を書き、そこからブレイクダウンして目標を設定していくんです。

樋口

これ、イメージがわきやすくていいですね。目標の設定の仕方にはコツがありますか?

松尾

目標には、定量と定性がありますが、心理学的には定性的な面を重視します。定量目標は「○点を取る」「学年○位になる」といったものですが、定性目標は「どういう状態か?」を表すもので、ここに意味や価値があるんですね。例えば「自習が生活習慣の一部になっている状態」「納得感を持って理系にいくかどうか選べている状態」「医学部に行きたい理由が言葉にできる状態」などがそうです。

樋口

なるほど、学習管理という面では「○点を取る」のような数値目標も大切ですが、数値目標の根っこには定性的な”目指す状態”があるわけですね。

松尾

そうですね。定性目標に注目すると、「○点取る」という定量目標はあくまで手段になります。すると、受験勉強をする価値や方向性を見失わず、前半で話したような、”様々な選択肢がある中で主体的にその道を選んでいる” という実感を持って取り組むことに繋がると思います。

樋口

確かに目指す方向性が決まっているかいないかで主体性が違ってきて、成長速度も変わってきそうですね。

松尾

後押しされる部分もあると思います。ただ、一方で、成長は一定して右肩上がりなわけではありません。実際のところは、螺旋階段です。行きつ戻りつしつつ前進します。そして、ときに停滞することもあります(高原現象)。計画通りでないときにいかに向き合うかが大切です。ドリームクエストシートで言うと、今いる階段はそれまでに登ってきた階段の上にあります。それまでに登った階段の目標はもう済んだものではなく、特に定性的なものは引き継がれたテーマでもあるとの認識が大切です。大人が焦り過ぎず、続いていることや努力していることに目を向けて、支えていけるといいと思います。

樋口

確かに。目標達成が続くと、どんどん次に進むものと思ってしまいがちですよね。大人が期待して焦ってどうにかしようとするのではなくて、本質を見て、進まないときこそ支えるのが大切なんですね。

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投げやりになってしまった・燃え尽きてしまった子どもには…

焦らずできるところから一歩ずつ自信をつけていく、または、定性的目標からブレイクダウンして次の一歩を決めてみましょう

Case. 2 ついつい言ってしまう「宿題は?なんでやらないの?」

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子どもがなかなか宿題をやらず、先生にも迷惑をかけているみたいなんです。つい「宿題やったの?」「なんでやらないの?」と言ってしまって。子どもも嫌がって勉強の話をしてくれなくなってしまいました。

松尾

「なんで」ってね、ついつい言っちゃいますよね。

樋口

勉強ができる保護者の方ほど、「なんで分からないの」とかね。

松尾

詰められている感じにも聞こえてしまうので、「なんで」は気をつけたほうが良いワードだと思います。「なんで」の理由が子ども自身にも分かっていない場合もありますしね。

樋口

そうですね。私も生徒に「なぜ」を問うことは多々ありますが、プレッシャーを与えないように雰囲気に気をつけながら、分からない時は分からないと言ってもらえるような関係性を心がけています。

松尾

雰囲気作りも大事ですね。 ご相談内容のようなシチュエーションの場合は、宿題を忘れていたのか、やらなかったのか、やったけどできなかったのかなど、広い視点からその子の状態や気持ちを分析する気持ちでいると、少し距離が取れて冷静になれるかもしれません。

樋口

確かに、分析と考えればちょっと冷静になれるかも。

松尾

例えば「宿題しんどい?」「難しかったり量が多かったりする?」「特に嫌な教科の宿題があるの?」といった聴き方はどうでしょう。責めずに状況を理解しようとする問いであれば、できない理由の自己理解が進むと思います。大人としては、思うような返答でなかったとしても、”改善するための材料を得た”という気持ちで返事を受け取れるといいですね。

樋口

子どもから状況を聞き出すんですね。
「できない」っていう結果があった時に、「やったけどできなかった」は目標設定の見たての甘さだと思いますが、「そもそもやっていない」はモチベーションに関わるものですし、状況は全く異なりますね。

松尾

背景に何があったかは本人に聞いてみないと分かりませんよね。聴いてみて、どんな状況かが分かった、できない背景が分かった。じゃあどうしていったらいいだろう?と話を進めることができ、一緒に考えたり、提案して子どもが選べる形を取れるといいですね。「決めつけない・押し付けない」、「理解に努める・一緒に考える」がキーになると思います。

樋口

親子の関係性、子どもの性格、文脈などによってもまた変わってきますよね。

松尾

そうですね。例えば「やればできる」も一見前向きな言葉ですが、関係性や性格によっては呪いの言葉になってしまう可能性もありますよね。「もうやってるよ!これが精一杯だよ」「今はやれてないって意味?頑張ってるのに」と受け取られてしまったり。

樋口

真面目な子ほど期待に応えなきゃ、がっかりさせてはいけない、と自分を追い詰めてしまうパターンもありますもんね。

松尾

ええ。子どもの性格はよく考慮した上で、

・親の焦る気持ちから言葉をかけていないかを親自身が内省する

・子どもの状態を探り、共感した上で、同意形成する

という意識を持つことで、声のかけ方も変わってくるのかなと思います。

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「なんでできないの」「なんでやらないの」と思った時は…

子どもの状態や気持ちを分析する気持ちで状況を聴いてみましょう

努力を褒めて、心理的安全性の高い雰囲気づくりを

樋口

ここまで、2つの具体的なご相談内容をもとに話してきましたが、一貫して主体は子どもで、親は子どもの「ソーシャルサポート」を担う一員なんですよね。親が子どもの勉強に関わる1つの形は、子どもが主体的に選択して行動していけるような環境を整えるということなんでしょうか。

松尾

まとめていただいてありがとうございます。 「心理的安全性」という言葉がありますが、失敗が許されるから挑戦できるし、失敗から人は学ぶんですよね。親も子も「間違えても大丈夫」「より良い失敗をしよう」というくらいの心構えを持てると良いと思います。そんな環境や雰囲気をご家庭でもつくっていけるといいですね。

樋口

普段からそんな心構えでいられたら、受験本番も落ち着いて臨めそうですね。 心理的安全性を高める雰囲気は、どうやったらつくれるのでしょうか?

松尾

そうですね…コツとしては、成果を褒めるのではなく努力を褒めるといいのではないでしょうか。研究でも明らかにされているところですが、成果を褒めると失敗を怖がって安パイを取ろうとしますけど、努力を褒めるとまた努力して難しい課題にチャレンジすることを後押ししますので。

樋口

努力を褒めるっていうと……「頑張ってるね」とかですか?

松尾

もうちょっと具体的だとなおいいと思います。以前と比べて成長したところ、やろうとしていること、続けていること、悪くなっていないこと、これらはすべて良いことなんですよね。成績にはまだ表れていないかもしれないけど、「毎日この問題集を続けているよね」「ミス増えてないね」「集中力保ててるよね」というようなことに親が気づいて伝えてあげられるといいですね。

樋口

なるほど、褒めてあげられるポイントって実はたくさんあるんですね。

松尾

そうなんです。ネガティブな要因やリスクって目につきやすいんですけど、いいところって意識しないと気づけないんですよね。

樋口

本日はいろいろと伺えてよかったです。家庭での声かけをテーマに話しましたが、講師から生徒への声かけにも通じるものがあり、私自身にとっても大変参考になりました。中高生のお子さんを持つ保護者の方にもきっと参考にしていただけると思います。
ありがとうございました!

Profile

松尾 華香

臨床心理士、公認心理師。教職に就いたのち、大学院に進学。修了後に発達障害児療育や保護者支援の他、指導員育成にも携わる。その後、HealthTechスタートアップでの事業開発などの経験を経て、現在は不登校・引きこもり専門クリニックでのカウンセリングのほか、幅広い年齢層の方のオンラインカウンセリング等も行っている。専門分野は、パーソセンタードアプローチや認知行動療法、応用行動分析など。

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