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心の専門家に聞く、
家庭での「子どもの勉強」への関わり方(前編)

特別インタビュー − 心理学から受験を考察する

スタディカルテLab

子どもがなかなか宿題をしない。このままで大学受験は大丈夫だろうか。心配になってあれこれ子どもに呼びかけてみても、なんだか嫌がられてしまってこれって逆効果?どうやって声をかけたらいいの? 子どもの勉強に対する親の関わり方について、心の専門家である臨床心理士・公認心理師の松尾さんにお話を伺いました。前編・後編の全2回でお届けします。

スタディカルテLab 代表/樋口 雅範

樋口

臨床心理士・公認心理師/松尾 華香

松尾

樋口

本日は貴重な機会をいただいてありがとうございます。心の専門家の松尾さんに、ぜひお話を伺いたいなと思っていました。

松尾

恐縮してしまいます(笑)
お声がけいただき、ありがとうございます!

樋口

様々なご家庭と関わる中で、保護者の方から「家庭で子どもの勉強にどう関わればいいんでしょうか」というようなご相談を受けることが度々あります。ぜひ心理学の視点からアドバイスをいただけたらと思っています。松尾さんは臨床心理士・公認心理師として、日頃から思春期のお子さんとも関わっていらっしゃるんですよね?

松尾

はい、現在は不登校専門クリニックでの児童・思春期のお子さんのカウンセリングや、出産・育児などの時期にお悩みの方のオンラインカウンセリング等に携わっています。以前は発達障害をもつ未就学児〜高校生のお子さんの療育をしていました。

子どもも親も納得する進路選択は、普段の雑談の延長にある

松尾

早速ですが、実際に樋口さんが見聞きされているご家庭でのコミュニケーション課題には、どのようなものがあるのでしょうか?

樋口

度々目にするのは、サポートしなきゃと思う親からの声かけが逆に子どもにとってプレッシャーになっていたり、親子間で認識にズレが出てきてしまったり、というパターンです。親の関わり方が子どもの内発的動機づけを損なっているのではないかなと感じることもあるんですね。

※ 内発的動機づけ:自分の内面から発生するやる気・意欲のこと

松尾

そうなんですね。もう少し具体的に教えてもらえますか?

樋口

スタディカルテLabは医学部志望の生徒さんも多いんですが、例えば医学部志望の子どもに対して、親からの声かけやフォローの仕方ってどうあるべきなのかというのも、保護者の方の悩みのひとつだと思います。

松尾

ああ、そうですよね、難しいですよね……。
その場合に私としては、まず確認したいなと思ったのは、「医学部に合格したい」気持ちはどこから来ているか?ということですね。

樋口

はい。

松尾

生徒自身の中に理由があるのか、それとも親側のニーズなのか……。
ここを親子間でしっかり話し合って同意形成しておかないと、いざ受験勉強をという時期が来たときにすれ違いが生じることもあるかもしれません。

樋口

まさに、そうなんです。
が、親子間とはいえ、改まって深いところを話し合って同意形成するのは簡単ではないですよね(笑)

松尾

そうですね(笑)
心理学的には、時間もコストも費やすほど後に引けなくなってきてしまうので(コンコルド効果)、進路選択が迫る前から進路や人生やキャリア、生き方などについて、話をする場を持てるといいのではないかと思います。
かしこまらずに、日常会話のなかで雑談のように気軽に本音で話し合えるタイミングを持てているといいかもしれません。その雰囲気自体が、子どもを支え、挑戦するときの支えになるように思います

樋口

雑談から始めるんですね。

松尾

例えば、中学1年生の段階で、自分の将来やなりたい人物像なんかをはっきり話せる子は少ないと思うんです。あくまで普段の気軽な雑談の中で、どんなことに興味があるのか理解しようとするスタンスで、好きな教科ややってみたいこと、マイブームなどを聞いてみるとよさそうです。ただ、プライバシーを持つことが精神的な自律へのプロセスになることも多いので、親から詮索されているという印象を抱かれないよう、親御さん自身の話も交えつつ、「それいいね」「すてきだね」「こういうのもいいよね」と反応しながら話題にして、普段子どもが何を考えているのか耳を傾けるといいと思います。

樋口

好きなものとか興味のあるものの先に、ばんやりと進路が見えてきたりしますよね。

松尾

そうですよね。そして、親自身が(退路も含めて)選択肢をたくさん持っておいて、会話の中で子どもにいろいろな将来の可能性を提示してあげる、というのもポイントかと思います。

樋口

なるほど、親自身が選択肢を持っておく。

松尾

自分の人生にいろんな選択肢があることを認識できていると、いざ卒業後の進路を考える時期が来たとき、視野を広く持って心の余裕を持ちやすくなると思います。

樋口

ああ、分かる気がします。選択肢があると知っていると、自分はそのたくさんの選択肢の中から今この道を選んで進んでいるんだという感覚が持ちやすいということですかね。

松尾

そうですそうです。

樋口

東京の大学を目指していたけどあえて地元の大学を選択するとか、医学部を目指していたけど途中で気が変わって工学部に変えるんだとか、あえて高専を選択するとか、いろいろありますよね。
私自身、私立大学を中退して国公立を受け直したり、数学の高校教師という道を進むつもりが起業したり、していますからね(笑)

松尾

いろいろありますよね。
それから、ついつい親が頑張りすぎちゃっているということもあると思います。知らず知らずのうちに親自身の夢を子どもに託していたり、親自身の人生を肯定したくて子どもに成果を出してほしかったり……。親御さん自身が多様な選択肢を持って心のゆとりが持てているといいなと思います。内省して気づくのは難しいですが、この選択は子どもの意志なのか、親の価値観ではないか、他に選択肢はないのか、と度々チェックしつつ子どもに関われたらいいですね。

子どもは選ぶ力・よい方向に向かう力を持っている

樋口

心の余裕を持った上で、家庭で子どもに声をかけたり勉強に関わったりする時は、具体的にどのようなところに気をつけたらいいのでしょうか?

松尾

そうですね、二点挙げるとすれば
① 信頼からスタートする
② 家庭外の関係者も頼る

ということが言えるかと思います。

樋口

うんうん。詳しく聞かせてください。

松尾

ひとつめの「信頼からスタートする」ということについてですが、何を信頼するかと言うと、子ども自身が持つ様々な選択肢から選ぶ力とよりよい方向に向かおうとする力です。

樋口

先ほどのお話にもあった、「親自身が選択肢をたくさん持っておく」こととリンクしますね。

松尾

そうですね。雑談の中で親が選択肢を子どもにたくさん提示していると、子ども自身もまた多くの選択肢を認識するようになりやすいと思います。そして、それらの選択肢を参考に、自分なりに行動を起こす力を子ども自身が持っているということを、子どもも親も信じることが、はじめの一歩だと思います。

樋口

うん。よく分かります。

松尾

子どもの勉強を見ていると、親としてはついつい焦る気持ちが出てきて、「もう高2の秋なのに!」なんて言って行動させようとすることもありますよね。ただ、本当に志望校に合格したいと思っているのなら、当の本人が一番焦っているはずなんです。もちろん親の思いを伝えることは大事ですが、押し付けにならないように "信じて" "共有する" 感覚がいいと思います。

樋口

そうですね。生徒さんを見ていると内心めちゃくちゃ焦っていて。ただその焦る気持ちを保護者の方にも開示しているかどうかは、本人の性格や親子の関係性にもよる気がします。
親子で気持ちや情報を共有する場を設けるといいんでしょうか?

松尾

うーん、、、樋口さんもおっしゃるように、個々の性格や関係性にもよりますが、、、
その上でひとつ言うとすれば、気持ちを共有するときには、あくまで主語を「私は」として話すといいと思います。できれば自分なりの理由も添えて。ものすごくわかりやすい例文を挙げるなら、「お母さんは、人を助ける仕事がしたいなら、医学部に行ったらいいと思うんだけど、あなたはどう思う?」という感じでしょうか。

樋口

ああ、なるほど。世の中的にそうだよというわけではなくて、あくまで「私はこう思う」というスタンスで気持ちを伝えながら、気持ちや考えを押し付けるわけでも抑え込むわけでもなく、共有することができるんですね。

家庭外の第三者も味方につけて「ソーシャルサポート」を広げる

松尾

ただ、実際のところ、親が全てを担うのは大変です。(むしろ親御さん自身へのサポートが必要なくらいです!)なので、学校の先生や塾の先生、友達など、うまく家庭外の誰かが介在してくる状態が理想です。

樋口

ふためのポイント、「家庭外の関係者も頼る」ということですね。

松尾

はい。学術的には、人との繋がりの中で生まれる精神的・物理的サポートのことを「ソーシャルサポート」といって、これがあると感じることで、ストレスからの立ち直りを促すと言われています。助けを得られることは、精神的な回復力に大切な要素です。

樋口

精神的回復力……レジリエンスというやつですか。

松尾

それです!

人生にストレスはつきものですから、どんなに成績優秀な子でも、受験に向かう中で何かしらのストレスを感じます。ときには落ち込んでも、そこからしなやかに立ち直って再び向き合える、この回復力をレジリエンスと呼びます。

このとき、ストレスの感じ方の緩衝材となってくれるものが「ソーシャルサポート」です。愚痴をきいて共感し励ましてもらえる・フィードバックをもらえる・評価してもらえる・手助けや道具がもらえる・情報提供してもらえる…などがこれにあたります。

樋口

確かに、愚痴を聞いたり共感したりは友達でもできるし、フィードバックや情報提供は学校の先生や塾も担えることですね。

松尾

親御さんが抱え込んで煮詰まってしまわないためにも、うまく家庭外の第三者を見つけて介在してもらうことで、子どもにとっての「ソーシャルサポート」を広げていくことができれば、受験勉強でストレスを受けながらも立ち向かう支えになると思います。

樋口

そうすると、スタディカルテLabは塾として、志望校の選び方だったり、生徒自身に合っている大学や学部はどこかを調べて提示したりもしていますが、これは情報提供という意味で受験生のソーシャルサポートの一部を担っていることになるんですね。

松尾

情報提供という面でもそうだと思いますし、生徒本人のことを理解して、相談したら自分に合った情報をこれだけまとめてくれるという誠実な対応にも、精神面での安心感や心強さを感じるんじゃないかなと思います。保護者の方にとってもサポートになるんじゃないでしょうか。

樋口

生徒や保護者の方にそう感じていただけていたら嬉しいですね。スタディカルテLabのサービスをこうやって心理学的に定義づけていただけると、励みになります。ありがとうございます。

続く後編では、実際の学習相談事例をもとに、心理学の面からアドバイスをいただきます。

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 心の専門家に聞く、家庭での

「子どもの勉強」への関わり方

(後編)

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Profile

松尾 華香

臨床心理士、公認心理師。教職に就いたのち、大学院に進学。修了後に発達障害児療育や保護者支援の他、指導員育成にも携わる。その後、HealthTechスタートアップでの事業開発などの経験を経て、現在は不登校・引きこもり専門クリニックでのカウンセリングのほか、幅広い年齢層の方のオンラインカウンセリング等も行っている。専門分野は、パーソセンタードアプローチや認知行動療法、応用行動分析など。

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